伝説
月老のもっとも名高い登場は、唐(とう)の時代のある月夜のことでした。書生の韋固(いこ)が旅籠(はたご)の外で、月明かりのもと大きな帳面をめくる白い髭の老人に出会います。不思議に思って尋ねると、老人はこう答えました。「これは、天下万人の縁を記した姻縁簿だ」。
韋固は自分の縁談はどうかと急いで問います。老人は帳面をめくり、通りの向かいで老婆に抱かれた幼い少女を指さしました。「その娘だ」。見れば小さく汚れた子で、思い描いていた相手とはまるで違う。腹を立てた韋固は、なんと刺客を差し向けます——刺客は手を下しきれず、少女の眉間に一太刀を残しただけでした。
十四年後、韋固は美しい妻を娶ります。婚礼の夜、妻の眉間にひとすじの傷跡があるのに気づき、尋ねてみると——あのときの、あの少女だったのです。
十四年逃げ回り、大きく遠回りをして、それでも彼は赤い糸のもう一方の端へと戻ってきた。千年語り継がれるこの物語が伝えるのは、たった一つ。月老の結んだ赤い糸は、刃物でも断ち切れない、ということです。
