伝説
呂洞賓は仙人になる前、試験に落ちつづける一人の読書人でした。唐代の彼は幾度も長安に上って進士(しんし)の試験を受けましたが、いつも不合格。運命が変わったのは、長安の酒場でのある一夜です。
彼はそこで仙人の鍾離権(しょうりけん)に出会いました。鍾離権はちょうど、黄粱(こうりょう/あわ)の飯を一鍋炊いているところです。その飯を待つあいだ、呂洞賓はうとうとと眠り込みました——夢のなかで彼は試験に合格し、とんとん拍子に出世し、妻を娶り、位人臣(くらいじんしん)を極め、しかし最後には悪人に陥れられ、妻子と離れ、街をさまよう身に落ちます。
はっと目を覚ますと、あの黄粱の飯はまだ炊き上がってさえいませんでした。
一生の栄枯盛衰が、飯ひと鍋の時間にも及ばない——これが故事成語「黄粱一夢(こうりょういちむ)」の由来です。呂洞賓はその場で功名への執着を捨て、鍾離権を師と仰ぎ、その後、美色・財・生死といった「十の試練」をくぐり抜けて、仙人となりました。仙人となってからも深山に隠れず、かえって人の世を巡って世を救い、「三たび岳陽楼(がくようろう)に酔う」風流を今に伝えています。八仙のなかでも、この落第生こそ、いちばん人情味にあふれた仙人なのです。
