伝説
『薬師瑠璃光如来本願功徳経』によれば、はかりしれない昔、薬師仏がまだ菩薩であったころ、十二の大願を立てました。そのどれもが、衆生のもっとも切実な苦しみに向けられています。病がまとわりつくこと、衣食に事欠くこと、心身が安らがないこと。それらの願がひとつひとつ満たされたのち、彼は仏となり、東方浄瑠璃世界——病苦もなく、欠乏もない清らかな仏の国——を築きました。その左右に控える脇侍が日光遍照菩薩(にっこうへんじょうぼさつ)と月光遍照菩薩(がっこうへんじょうぼさつ)で、三尊あわせて「東方三聖」と呼ばれ、西方極楽世界の「西方三聖」とはるかに向かい合います。一方は亡き人を浄土へ導き、もう一方は今生(こんじょう)の暮らしを見守る、というわけです。
薬師信仰は台湾に伝わると、健康・家庭・生計といった現世の営みに寄り添うがゆえに、瞬く間に日常へ溶け込みました。いまや毎年の正月、仏光山から法鼓山まで、薬師灯や光明灯を灯そうとする人の列が延々とつづき、多くの寺院では安太歳と光明灯をあわせて祀ります。台湾の人は『薬師経』を読んだことはなくても、ほとんどどの家庭も、何らかのかたちで薬師仏の見守りを受けてきた——そう言ってよいでしょう。
